1999年以前のいろいろ

あまりに忙しくて、 書いている暇がなかったのはあるけど、What's Newとかいって、1年以上も変わらない(Last updateは1998/07/30とありました…) というのも、ひどい。去年(1999年)一年と最近のこと付け加えます。
ICCS'99
ICCS(International Conference of Cognitive Science)という学会の事務局のようなことを昨年の前半やっていました。Invited speakerとの連絡担当ということで、 けっこう神経を使いました。会期中はひどい頭痛に悩まされていました。論文、3つと カテゴリーについての今井むつみさんが企画したsymposiumのdiscussantを 担当して、へとへとになりました。discussantというのは日本語でもやったことが ないので、これは大変でした。なんか、いろんな発表をちゃんとまとめるみたいな 仕事になってしまいましたが、「あれでわかった」と何人かのかたからほめられま した。一方、「なんであんなお行儀良くやったの?」という人もいて、確かに そうだなあと思いました。

博士論文
1999年は博士論文の年でした。まだ続いていますが、もう書くことはないので だいぶ気が楽になりました。本当に大変なんですね。 書いたものも本当に難しくて、自分で読んでもすぐには理解できない部分もあります。 こうした作業は、体力、気力が十分なときにやるものです。

大学院
1999年度から、大学院を担当することになりました。以前は、助教授(ふぜい?) には大学院の講義を持たせないというのが我が学科の方針でしたが、まあ、今年から 助教授も持つようにとのことでしたので、ありがたく引き受けさせていただきました。 久しぶり楽しかったですね(東工大にいたときは、教授の代わりにゼミをやっていま したので、6年ぶりかな)。

受講生が一人(しかも他学科)ということでしたが、いろいろ集まってきて、結局 5人ほどで

を読みました。むろん、読心術の本ではありません。そもそもThagard(下にでて くる「アナロジーの力」の翻訳者です)は、 "Mind(MIT)"という教科書を出版していて(翻訳は松原さんがやっていて「マインド」 (共立出版)です)、これのAdvanced Readingsという 意味合いを持つのが、上記の本です。いろいろとおもしろかったのですが、 特に印象に残ったのが、第1章のH. A. Simon(あのサイモンです)の次のくだり です(元論文は、1992年です)。

By any reasonable metric, we know more about the human mind and brain than geophysicists know about the plate tectonics, far more than particle physicists know about elementary particles, or biologists about the processes that transform an fertilized egg into a complex multicellular organism.

訳:(妥当な尺度を使う限り、認知科学者が人間の心と脳について知っている ことは、地球物理学者がプレートテクトニクスについて知っていることよりも 多いし、粒子物理学者が基本的粒子について知っていることより、また受精卵 から複雑な多細胞生物に変化するプロセスについて生物学者が知っていること よりも、はるかに多い。)

これの真偽を確かめる能力は私にはありませんが、認知科学をやっているも のとして元気が出る一言です。

あとは、Durfeeという人の書いた、(これも古いのですが)multiagentについての 論文もおもしろかった。「作る」、「設計する」という視点から、人間をとらえ直す ことの強みをまた久しぶり実感しました。こんなロジックです。

  1. 人間みたいなの作りたいなぁ
  2. 人間て何やってるの?
  3. こんなことやってる。
  4. こんなこと実現しよう。
  5. そのモデルはこれ!
  6. モデル実現には何をやればいい?
  7. こんな技術が使える(あるいは今の技術じゃだめだから、この技術を開発しよう)。

出来上がりが人間かどうか、人間のモデルとなるかどうか はわからないけど。シンプルでいいですよね。皮肉では ありません。こういう精神を心理学者も持つべきだと、強く思う。調べてばっかり じゃ、意味がない。

人工知能学会
1999年の6月にはじめて、人工知能学会で発表しました(だいぶ前から、会員 でしたがずっと賛助会員(会費だけを納める会員という意味)でした)。そのセッション は、「リアリティ」と「インタフェース」の問題を扱った発表をまとめたものでした。

私の発表を簡単にまとめると、

というものでした。

CG,VR技術などを駆使してエージェントをつくろうと一生懸命になっている人が多い ところでの発表でしたので、発表後ちょっと過激だったかなとも思いました。

ところが、その数ヵ月後に「ベストプレゼンテーション賞」というものをいただく ことになりました。受賞理由は、「OHPを適切に使った」とかいうものでしたが、 まさか人工知能学会でOHPを上手に使った程度で賞をもらうはずはない、きっと 内容が良かったに決まっていると勝手に解釈して喜ぶとともに、この学会は 度量の広い人たちが多いなぁと感心してしまいました。

詳しくは、ここをごらんください。

「アナロジーの力」刊行

Keith J. HolyoakPaul Thagard著の"Mental Leaps: Analogy in Creative Thought"の翻訳が新曜社から刊行されました(5200円)。この本は、多重制約 という考え方から、人間、動物、機械におけるアナロジーを包括的に論じた、 素晴らしい本です。訳者がいうのもなんですが、名著です。著者の二人の経歴 は次の通りです。

キース・ホリオーク教授は現在、カリフォルニア大学ロサンジェルス校の心理 学科の教授である。彼は、カナダのブリティッシュ・コロンビア大学を卒業し、 スタンフォード大学で博士号を取得している。これに加えて、認知科学会の運 営委員会会長、Cognitive Science誌の上級編集委員、 Cognitive Psychology誌の編集委員をつとめている。

ポール・サガード教授は、現在カナダのウォータールー大学の哲学科、心理学 科、コンピュータ科学科の教授、同大学の認知科学プログラムの所長であり、 認知科学会の運営委員として活躍している。彼は、カナダのサスカッチュワン 大学、ケンブリッジ大学を経て、トロント大学で博士号を取得している。また、 ミシガン大学ではコンピュータサイエンスで修士号も取得している。彼は、本 書の他にも数多くの本を著しており、Mind: Introduction to Cogntiive Science}(MIT Press, 1996)(近々、翻訳出版)、Coceptual Rev olustion (Princeton University Press, 1992), Computational Philosophy of Science. (MIT Press, 1988)の著者である。

以下に、目次だけ載せます。

  1. はじめに
  2. アナロジーの多重制約理論
  3. 動物のアナロジー
  4. 子どものアナロジー
  5. アナロジーのプロセス
  6. 意思決定におけるアナロジー
  7. 説明におけるアナロジー
  8. 科学におけるアナロジー
  9. 文化におけるアナロジー
  10. アナロジーのコンピュータモデル

ソフィア

ブルガリアのソフィアで、Analogy'98という類推関係のワークショップがあり、7月15日から1週間ほど出かけてきます。Justification of Analogy by Abstractionというタイトルで論文を発表してきます。話は「類似と思考」(共立)に書いたことをまとめたものですが、あの時よりもだいぶ頭がすっきりしてきました(すみません>共立の方)。新しいネタも入れてありますので、読みたい方は ここをクリックしてください。