青山学院大学 総合研究所
            AOYAMA GAKUIN UNIVERSITY RESEARCH INSTITUTE

平和構築研究におけるイノベーション~SDGs16とフィールドの視点の架橋

2019年度 SDGs関連研究補助制度 採択課題

研究者:田中(坂部) 有佳子

本プロジェクトは、目標16「平和と公正をすべてのひとに」が他の目標達成への手段にもなることに着目し、いかに他の目標と連関しあうのかを検討することを目的とした。特に、従来の平和構築研究では焦点があてられにくかった科学技術、都市計画、環境整備、企業の社会的責任といった分野の専門家・実務家からの報告をいただいた。また、平和構築分野でも新たな視点をもつ選挙、ジェンダーの平等を専門とする方々からの報告を含め、計3つの研究会、ワークショップ、セミナーを実施することで、学際的な議論と各目標の達成に向けた方策を抽出することを目指した。各報告者が取り上げたのは、日本のみならず、アジア、アフリカ、中東と幅広い地域に跨るケースであった。各報告に基づき、本プロジェクトの成果として報告書を作成したので、詳細はそちらを参照願いたい。

目標16をいかに実現するかについて、国連と世界銀行の共著による2018年刊行の『平和への道』は、紛争研究をはじめとする先行研究の知見を踏まえて指針を論じている。ここには、武力紛争のみならず昨今の一般犯罪や情勢不安の増加を踏まえ、多様な暴力的紛争を止めるためには未然に紛争の種を取り除くこと(紛争予防)が不可欠であるとの考えが主流にある。そのなかで、近年人口層として急増する若者や、社会的に排除されがちな女性といった脆弱な社会グループへの着目、急激な都市化への対処、科学技術の有効活用といった提言が挙がった。現在は、一般的指針を示した提言を各事例に適用し実現していく段階にあるといえる。

各登壇者の報告を通じ、国際機関、二国間援助機関、政府、非政府組織(NGO)といった面々については、現場の人々の主体性(オーナーシップ)を重視する姿勢が問われながら、ガバナンスが脆弱な国で自由で公正な選挙実施などを支える重要性が確認できる【報告書内報告1】。一方、平和構築に関わるアクターとして見落とされがちな企業の役割も再認識した。報告者らが提案した、企業がもつ技術(ブロックチェーンや情報テクノロジー)を開発援助、企業活動、一般市民の活動と組み合わせて紛争影響国における環境問題や公正な経済活動に活用するアイディアは、目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」とも連動する【報告2,3】。ただし、企業活動そのものが起こす人権侵害などの負の影響も否定はできない【報告4】。市民社会、NGOらの自発的な活動について、官・民と連携を取りつつ紛争予防に貢献しているケースにおいても、現場では緊張感を保ちながら多民族間の共存を模索し続ける実態がある【報告5】。また、女性の立場から女性を支援するとしても、各社会集団がもつ行動規範とは異なる国の方策や思想の狭間で起きる軋轢も報告された【報告6】。SDGsがもつ意図をどのように解釈するかの課題も浮かび上がった。

平和構築の視点からは、不平等、排除を払拭していくにあたり、革新的な手法で包摂性を解決策に取り入れる重要性を認識できる。官民産学の協力の可能性が見出せる一方、アクター間の緊張・摩擦も新たに生じうることには留意が必要である。学術研究と現場・民間の経験の架橋により、今後もさらに具体的なケースからの知見の集約とアイディアの創出が望まれるだろう。