青山学院大学 総合研究所
            AOYAMA GAKUIN UNIVERSITY RESEARCH INSTITUTE

企業の特性とSDGs取組領域の関係

2019年度 SDGs関連研究補助制度 採択課題

研究者:宮副 謙司

1.研究の目的

企業は、SDGsに取り組むにあたり、その17領域のうち、どの領域から取り組めばいいのかということが近年の経営課題になっている。企業の経営要素、例えば、その産業特性(製品特性・サプライチェーン特性・ロジスティックス特性など)や所在する地域特性によって「取り組むべき領域」「相応しい領域」「取り組みやすい領域」があるのだろうか。本研究では、企業のSDGs活動に焦点をあて、①業種:取扱製品の特性、②本業の業務プロセス(原料調達・生産・販売・PR・物流・人事)に関連するものか、③新規関連事業としての取り組みか、④寄附・社会貢献活動か、といった切り口で、現在の取り組み実態を調査し、企業のSDGs取り組みの特徴を明らかにする。

2.研究方法

研究対象企業として、第一にパタゴニア(早くから独自の環境的・社会的な活動をグローバルに展開:新規開拓の研究対象)、第二に授業関連からファッション・アパレルの3社(縫製・紡績といったバリューチェーンの段階も考慮:新規)、第三に地域活性化研究での研究対象で既存の関係先でもある愛媛県西条市に事業拠点を持つ全国企業(花王・アサヒビール・クラレ)、四国企業(四国電力・JR四国・伊予銀行)をとりあげた。これらの企業についてアニュアルレポートなど公開情報収集とインタビュー調査・事業現場調査(2019年10月から2020年3月までの約半年間)から事例分析を行い結果をまとめた。

3.本研究で明らかになったこと

3-1.パタゴニアについて

パタゴニアは、米国の登山・サーフィン・アウトドア用品・衣料品の製造販売を手掛ける企業で、日本でも1988年から営業している(全国で22店舗展開)。環境に配慮した商品を開発し販売するともに、製品回収・リサイクルや環境問題に取り組む団体などへの助成、社員の環境保護活動(ビーチクリーンなど)・震災支援(被災者へのシャワー提供・物資支援)など社会的なコミュニティ活動を行っている。その活動発信も毎年の「環境的・社会的イニシアチブ」小冊子の発行、取り組み結果の指標化、店舗店頭での活動紹介・情報発信、顧客との相互交流など独自で活発である。国連のSDGs活動の以前から地球環境問題に問題意識が高くSDGs の枠組みでなくより本質的な取り組みと認識できる(1月以降コロナ問題で同社コミュニティ活動が相次いで中止となり、当初予定の体験リサーチができていない)。

3-2.ファッション・アパレル

ファッション・アパレル分野で、川上から川下までバリューチェーンを意識した企業の選択をして工場視察などを進めたが、「メイドインジャパン」のデザイン・縫製にこだわる「TOOT」(紳士下着)・「エミネント・スラックス」(紳士スラックス)・「ユニチカ」(紡績)では、独自の技術での「つくる責任」の発揮はもとより、現地の多くの女性の雇用により工場が所在する地域の「いきがいや経済成長」を生み出していることを認識できた。

3-3.愛媛県西条市で事業展開する企業

第一に、企業の本業領域に関連した子供向け教育がSDGs活動として数多くみられる(例えば、花王の小学生対象の手洗い講座・おそうじ講座、クラレの化学教室、アサヒビール工場での製造工程・環境保全解説)。これらは地域の子供教育に有効で子育て環境充実の一助となり、実際に西条市の子育て世代の移住増加につながっている。

第二に、当地での事業展開の歴史が長いクラレの事例では、施策の意味合いの変化がみられる。当初、従業員福利厚生で開設された教会・幼稚園、病院や民藝館など「直接的なSDGs」が、長年を経て同社以外の運営に移管され地域の資源となった。しかし民藝については、西条は企業から「器」を与えられただけであって、盛岡や鳥取などのような地域の人々が民藝に目覚め「中身」を育成する文化活動に至らず、真の地域活性化につながっていない。地域の人々のシチズンシップを醸成するような「間接的なSDGs」が重要ではないかという本研究の当初仮説が証明される事例とわかった。

第三に、四国企業は、文化芸術支援や観光への貢献以外にも、四国全域から地域情報を丹念に収集し地域価値に編集し地域向け施策に仕立てる能力が高い。地域に根ざしながらも俯瞰的に見て地域資源をコーディネートする広域企業ならでは眼と能力を備えているという特徴も明らかになった。地域行政や住民がさらに企業のリソースをSDGs活動に引きだすようなシチズンシップを持つことがこの地域の今後の課題と判明した。

4.研究成果の社会的発表と青山学院大学での教育への反映計画

本研究は、企業による地域活性化の研究から発展させる流れで進んでおり、日本商業学会「2020年度研究発表大会」(2020年6月:拓殖大学)での研究発表「SDGsと地域活性化」を予定している。また本研究の成果と蓄積を踏まえ、大学院国際マネジメント研究科(青山ビジネススクール)において2020年度より新たにアクション・ラーニング授業「SDGsコミュニティ・マーケティング」を開講する。

図表-1 企業特性及び活動分類(本業・関連事業・貢献活動)とSDGs領域の関係
(出所)宮副謙司作成(2020)
写真-1 パタゴニア「環境的・社会的イニシアチブ」(日本語版小冊子)
写真-2 エミネント・スラックス工場の状況(長崎県松浦市)