青山学院大学 総合研究所
            AOYAMA GAKUIN UNIVERSITY RESEARCH INSTITUTE

アジアの農業の持続的発展に向けて

2019年度 SDGs関連研究補助制度 採択課題

研究者:加治佐 敬

多くのアジア諸国が軽工業を中心とする労働集約的な工業化を成功させ、着実に経済発展を遂げている。その結果、農村部においては若者を中心とした労働人口の都市部への流出が急速に進み、農村における高齢化と農業労働不足が深刻化している。この問題に対し、理論的な解答を与えることは難しくない。それは、農業部門の要素賦存の変化に沿った生産構造への転換、すなわち、労働節約的・資本集約的な技術体系への構造転換である。農業の場合、具体的には大型機械化と経営規模の大型化となる。経営規模の大型化が必要なのは、大型機械の作業効率を上げるためにはある一定規模以上の経営面積が必要だからである。

一方で、現実問題として、このような方向で農業の構造転換をスムーズに達成することは、かなり難しい。農業保護や小規模零細農家保護といった政治経済学的な力学が作用するからである。いかに難しいかは、長年大規模化を目標としつつも、なかなか達成できない日本の経験がそれを如実に物語っている。

本課題では、上記の問題が急速に深刻化している中国を対象とし、どのような政策が実行され、大規模化がどのように進んでいるのか(もしくは進んでいないのか)を日本との比較のうえで明らかにする試みを行った。活動の中心として、日中の研究者によるシンポジウムの開催を3月に予定していたが、1月以降のCOVID-19の深刻化により残念ながら不可能となった。研究成果としては、文献やデータによる現状分析のみとなる。

整理したところによると、中国では、草の根的に発生した土地の株式化という動きが全国に広まり、農地の集積が急速に進んでいることが分かった。中国では土地は国有であるが、農家は使用権を持っている。その使用権を株式化し、ある一定規模の農地を村の合議を経て集積し、企業や先進農家に貸し、農家は地代として株式の配当を分配されるのである。使用権は株式化により個々の権利となるが、意思決定は土地を所有する村がおこなうことで、まとまった土地が貸与可能となる。中国的な所有権制度の下で、土地の貸借市場を活性化させ大規模化を実現する見事な制度的工夫と言って良い。この制度の下で、土地流動化率は2009年の12%から2017年の37%にまで上昇した(山田2000)。

一方日本では、1970年の農地法改正で自作農主義から借地主義へと転換を目指し、法的には借地が容易となったが、現実には農地の流動化は進まなかった。借地は個人の判断で行われるため、優良な区画に借地を拒む農家が存在すると、地区全体でまとまった土地を集積し貸し出すことは難しくなる。村の意思決定が強い強制力を持つ中国との違いがここに見て取れるかもしれない。

このような状況下において、将来的には、大規模化と生産性の向上という点から日本は中国に追い抜かれる可能性があるだろう。この点に関し、来年度は中止となったシンポジウムをぜひ実施し、議論し知見を深めたい。

参考文献
山田七絵『現代中国の農村発展と資源管理:村による集団所有と経営』東京大学出版会2000年