青山学院大学 総合研究所
            AOYAMA GAKUIN UNIVERSITY RESEARCH INSTITUTE

青山学院444一貫制英語教育構想の異文化間能力育成に資するSDGsの基盤形成研究

2019年度 SDGs関連研究補助制度 採択課題

研究者:木村 松雄

1.SDGs教育の教育学的意義の確認

佐藤学(2019)は『SDGs時代の教育―すべての人に質の高い学びの教育を』の最終章を締め括るにあたり、SDGs教育の意義についてこう述べている。「持続可能性の教育は、地球の持続可能性の保持、生物多様性の保護、自然との調和、再生可能エネルギーの開発と再生可能な生活様式の構築、多文化共生、戦争と紛争の抑止、貧困と暴力と差別と排除の撲滅、人間の尊厳と人権の確立、人口問題の解決など、持続可能な社会を実現する直接的な課題の教育として具現化されている。」さらに、「持続可能性の教育は、その外廷において、教育の全ての領域を「持続可能性」という理念と哲学によって再構成する実践として展開されている。持続可能性の教育は、教育の一領域であるだけでなく、全ての領域の教育の究極的な目的でもある。(後略)」として、その教育実践には21世紀の教育が担うべき人類史的な使命と責任があると結んでいる。

2.異文化間能力育成に資するSDGs教育必要性の確認

「異文化間能力(Intercultural competence :IC)」は、異なる文化やアイデンティティをもった人間同士が交流する際に、適切な判断と態度をもって文化間を仲介しながら、共通理解を構築することができる能力をさす(Byram,1997)。Byramは、言語能力、社会言語能力、談話能力にICを加え、異文化間コミュニケーション能力の育成を主張する。新学習指導要領(2017・2018)の骨格を支えるCEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)は、複言語主義、複文化主義、行動志向主義によって成り立つ言語政策であるが、学習者の言語運用能力を評価することを主たる目標として使用されがちであり、複言語能力を育成する目的が軽視されてきた反省がある。この偏りを是正し、CEFRを本来の理念に基づく姿に戻し、学習者の複言語・複文化能力を育成するために、CEFRの補完として、FREPA(言語と文化の複言語的アプローチ参照枠)が、2012年欧州評議会より提案された。青山学院英語教育研究センターは、FREPAの理念を採り入れた研究を2017年度に開始しその成果「英語教育における異文化間能力育成の重要性―青山学院異文化間能力指標の検討からの示唆―」(髙木・木村)を2019年度に発表したが、次の段階として、学習者の課題解決能力育成に資する具体的な社会的テーマ(課題)が必要となる。環境、開発、貧困、平和、人権等、人類共通の課題を解決するためには、言語教育を核として、各課題を学際的に捉え、体系的かつ協調的に解決する思想と行動が不可欠となる。先行した異文化間能力指標が包括的且つ具体的に機能するためにはSDGsの17項目が最も適したテーマ(課題)であることを確認した。444の各期及び大学におけるテーマ設定が今後の課題となる。

3.学生から見たSDGs17項目の重要度調査結果と今後の課題

SDGs17項目の重要度に本来序列はないが、社会が取り組むべき課題としての優先順位について学習者の考えを知っておくことは、444一貫制英語教育構想の異文化間能力育成を具体的に課題化する上において有効かつ必須と考えられる。試論的研究として、実験的に大学生に対してSDGs17項目(目標1―目標17)を示し、重要度の高いと思われる順番に17項目を並び替える作業を行った。対象は「英語科教育法」を受講する大学3年次の学生80名である。実施時期は2020年1月上旬である。17項目中上位1位から6位は以下の通りであった。1位:目標16;「平和で公平な社会」15人(19%)、2位:目標3;「健康であること」14人(18%)、3位:目標2「飢餓をなくすこと」11人(14%)、3位:目標6「清潔な水と衛生」11人(14%)、5位:目標17「目標のために協力すること」10人(13%)、6位:目標10「不平等を減らすこと」5人(6%)となった。北村(2019)は「持続可能な社会の実現」を可能にするためには、人間と社会はそれぞれ成長と生存・存続の両面においてバランスよく開発していくことが重要であるとして、「実現可能な社会の実現」を中心に置く第1から第4の象限図を構成した。第1象限:人間の成長に関する領域(教育分野)、第2象限:人間の生存に関する領域(保健・健康・衛生に関する分野)、第3象限:社会の存続に関する領域(環境・資源に関する諸分野)、第4象限:社会の成長に関する領域(経済開発分野)。この象限図に上記の結果を当てはめると、1位:目標16(第3象限)、2位:目標3(第2象限)、3位:目標2(第2象限)、3位:目標6(第2象限)、5位:目標17(第1象限)、6位:目標10(第1象限)となり、第4象限「社会の成長に関する領域(経済開発分野)」に当てはまる目標は少なくとも1位から6位までの目標の中にはないことが分かった。実践的教育研究を展開するためには、テーマに対する学習者の興味・関心(needs)の拠り所とその理由を明らかにしておく必要がある。

上記方法を用いて、444各期(初等部・中等部・高等部)において調査・分析をすることに加え、大学全体(人文系・社会系・理系)を対象とした調査・分析を行い、なおその理由を明らかにする質的分析を行うことで、縦の系と横の系からなる座標軸から見える青山学院の学習者群のSDGsに対する意識を構造的に捉えることが方法論を展開する前の課題と言えよう。さらに同研究方法等による国際比較調査を行うことができれば、先進国・途上国の区別なく世界のあらゆる地域に関係する地球規模の問題に向き合うこととなり、異文化間能力育成に資するSDGs研究推進に細やか乍ら貢献することが期待できよう。